社員通信 実生の魅力 -木のあかちゃん-
庭園の維持管理をしています。12月になると本格的な冬支度です。寒さに弱い樹木には「こも」を巻いて防寒を、大切な苔の上には松葉を敷いて霜害から守ります。「わら」や「松葉」といった循環型の材料を用いて様式美を追及していく日本庭園文化は本当に奥が深いです。
植込み地で落ち葉掃除をしていると、たくさんの樹木の「実生(みしょう)」を見かけます。種から発芽した状態を実生と呼びますが、植物に関する勉強や仕事をしている方でなければ、あまり聞きなれない言葉かもしれません。造園の世界では、材料として使われる樹木は、接ぎ木や挿し木で生産されるものが多く、種から育った実生は、それと区別する言葉として良く使われます。今の時期、落葉の中から小さくても凛とした姿で顔を出している常緑樹の実生をみつけると、なんだか得をしたような気分になります。高さ10メートルを超えるような大きな樹木も、この小さな苗から始まるのかと思うと、つい時を忘れて見入ってしまいます。あたりを見回しても近くに親の木が見当たらない時は、きっとその種を運んだのであろう鳥や風たちに思いを巡らせます。植物のシンプルな営みを通じて自然のメカニズムを肌で感じられるのは、私たち植木職の醍醐味かもしれません。
ところで、この実生たちですが、注意して見ていると、意外とあちこちにあります。写真は私の自宅の排水溝の横からにひょっこりと出ていたハマヒサカキの実生です。可愛らしいので小さな陶器に植えて部屋においてみました。毎日木のあかちゃんから、たくさんのエネルギーをもらっています。
写真1 ナンテンの実生
写真2 シラカシの実生
写真3 ハマヒサカキ
(2020/11/30 K.I)